函館短期大学発「食・健・幸」
食を学ぶことは健康を学ぶこと。健康はすべての人が願う幸せ。

郷土料理に秘められた科学性
            ~北海道のじゃがいも料理にみる~
レシピ No.3
だし餅
いも餅
どったら餅
 「調理学」担当教授  畑井 朝子
 調理には「かん」とか「こつ」という言葉で表現される秘訣が多く、この秘訣の中にはその道の人々が長い間に感じとられた大切なものがたくさんあります。これらの解明が調理科学の目的であり、調理にあたってはなぜそうするのかの疑問点の科学的把握が必要であり、その科学性と食品の持つ調理性との関連は表裏の関係にあります。
 調理実習にあたっては、上記の事項を基礎として発展させる必要があり、基礎が把握されていない状態では応用・発展がほとんど不可能であると思われます。したがって、本学で開講されている「調理実習II」では調理実習時に起こりやすい失敗や疑問点、そしてその食品の調理上で応用される性質、すなわち、調理性の把握に焦点をあてて展開し、その食品の調理性が有効に生かされた調理例を中心に実習を行っています。
 郷土料理は先人達が長時間かけて工夫を重ねてきた知恵と技術が凝集したものであり、先人達に気付かれないままに培われてきた科学性が秘められたものが多くあります。今回は「じゃがいも」の調理性を巧みに応用した、北海道の郷土料理として位置づけられる「だし餅」「いも餅」「どったら餅」を紹介します。


  だし餅 (布巾コ餅、生すり餅)


< 材 料 (6人分) >

 ・じゃがいも : 600g
 ・でんぷん : 30g
 ・煮出し(煮干し) : 1100cc
 ・鶏肉 : 120g
 ・ねぎ : 40g
 ・塩 : 適量
 ・醤油 : 適量
< 作 り 方 >
(1) じゃがいもの皮をむき、おろし金ですりおろす。
(2) (1)を目の粗い布巾に包み水中で搾りながらもみ洗いし、搾り汁 と 搾り粕 に分ける。
(3) 搾り汁は沈殿させ、でんぷんを取る。
(4) (3)のでんぷんと搾り粕を混ぜて、すり混ぜ、一口大に成形し茹でておく。
(5) 調味した熱い煮出しの中にそぎ切りした鶏肉と(4)を加え、最後にねぎを入れる。(成形しただんごを煮出しの中に直接入れてもよい)
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  いも餅


< 材 料 (6人分) >

 ・じゃがいも : 600g
 ・塩 : 2g
 ・でんぷん : 80~100g
 ・油 : 適量
 ---たれ---
 ・醤油 : 48g
 ・水 : 45cc
 ・砂糖 : 40g
 ・でんぷん : 8g
< 作 り 方 >
(1) じゃがいもの皮をむき茹でる。
(2) 茹で上がったら、熱いうちに潰す(うらごしてもよい)。
(3) (2)に塩・でんぷんを加え混ぜた後、成形する。
(4) フライパンに油をうすく敷き、成形した餅を色よく焼く。
(5) 餅を皿にとり、でんぷんでとろみをつけたたれをかける。
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  どったら餅


< 材 料 (6人分) >

 ・じゃがいも : 600g
 ---みつ---
 ・黒砂糖 : 80g
 ・水 : 30~45cc
< 作 り 方 >
(1) じゃがいもの皮をむき茹で、冷ましてからすり鉢でべとべとになるまですり混ぜる。
(2) 黒砂糖と水を鍋にとり加熱し黒蜜を作り、冷やしてから器にとる。
(3) (2)の中に(1)の餅を入れる。
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 以上のだし餅、いも餅、どったら餅の調理過程をまとめると図1のようになります。


図1.だし餅・いも餅・どったら餅の調理過程  ( )中は調理科学的現象の観察

 じゃがいも料理は多種多様ですが、その組織化学的変化による所が多く、それぞれの料理の物性、食味、美味しさを左右しています。生じゃがいもの組織は図2に見られるように澱粉貯蔵細胞の集合体であり、じゃがいも料理はこの組織をどの様な状態で使用するかによると考えられます。
 すなわち、
   (1) 組織を破壊せずに塊状態で利用する
   (2) 生の状態で組織を破壊し、繊維素と澱粉に分離して利用する
   (3) 加熱後に組織を磨砕・破壊して澱粉貯蔵細胞の状態で利用する
   (4) 加熱後に組織を磨砕・破壊した後さらに澱粉貯蔵細胞を混捏・破壊して、糊化澱粉を
     露出・破壊した状態で利用する
などです。ポテトサラダ、煮物などは(1)に、だし餅は(2)に、いも餅は(3)に、どったら餅は(4)にそれぞれ相当します。これらの組織の変化を模式化したものが図2になります。


図2.じゃがいもの組織の変化

 これらのじゃがいも餅の物性をやや過大評価すると、それぞれ粘性を帯びてはいるが、(2)のだし餅は「サクサク」、(3)のいも餅は「サラサラ」、(4)のどったら餅は「ベトベト」と表現されます。
 以上のように、現在の調理科学の手法で証明されるじゃがいもの調理性が、先人の残してくれた郷土料理の調理法にそのまま生かされていたことに驚くとともに、先人達の長年にわたる経験・技術そして知恵の科学性には頭の下がる思いです。家庭、地域における見様・見真似による教育の機会が著しく減少している現代においては、郷土料理、伝統料理そして先人・先祖の守り、残してくれた食生活、さらには生活全般にわたる技術・知恵を見直し、大切に受け継ぎ、守っていく意義と責任を再確認したいものです。


  <引用・参考資料>
     ・松元文子・吉松藤子 編 : 四訂 調理実験,柴田書店(1997)
     ・「日本の食生活全集 北海道」編集委員会 編集:
               日本の食生活全集1「聞き書 北海道の食事」,社団法人 農山漁村文化教会(1986)
     ・畑井朝子 : 家庭科食生活領域における調理実験学習の試案(1) ~ジャガイモを題材として~
               北海道教育大学紀要(第II部C)第42巻第1号(1991)




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