函館短期大学発「食・健・幸」
食を学ぶことは健康を学ぶこと。健康はすべての人が願う幸せ。


  山 菜 礼 讃
      「調理実習」担当  相馬 すが子 教授
コラム No.9 
2007年4月 

 「早蕨(さわらび)が握り拳(こぶし)を振り上げて山の横つらはる風ぞ吹く」 ~ 江戸後期の狂歌師 大田蜀山人(おおたしょくさんじん※1)のこの歌は、狂歌的ユーモアのほかに、春を待ち焦がれている心に若草や山菜の思い出を運んでくれる風のようで心楽しくなります。
 北国の春一番は「ふきのとう」です。いかにも春を待ちわびていたように、雪解けの下からむくむくと顔を出して見る見る伸びます。この逞しさは好ましいものです。そしてほろ苦さと何とも云えぬ春の香りが食卓を楽しませます。

● ふきのとう
 きく科の多年草。ふきの花茎。外側の汚れた葉を落としてからさっと茹で、半日位水にさらして用います。ふきのとう味噌、味噌汁の実、てんぷら、味噌漬け、茹でて保存用袋に入れて冷凍しておくと風味が残り季節が終わっても楽しめます。

● ふ き
 4月から5月までが最盛期。葉柄は採ったらすぐ塩入の湯で茹で、皮を剥いて水に半日位さらして用います。汁の実、あえもの、煮もの、佃煮など料理法も多く醤油、味噌、酢など調味料と良く合います。

 山の雪解け水で小川がとうとうと音をたてて流れ、野山が一面緑になると、この中に食用あるいは薬用になる山菜が沢山あります。

● 蕨(わらび) (早蕨(さわらび)
 イノモトソウ科の夏緑性シダ。蜀山人(しょくさんじん)の歌の中にあった早蕨は蕨の若芽。拳を思わせる若芽を摘み取り煮もの、和え物、浸し物にします。茹でた茎を軽く叩くと、ぬめりが出て独特の食感を楽しめます。葉先が開いてくると硬くなり食べられません。下ごしらえは、重曹を用いてアク抜きをし(目安、熱湯2リットルに重曹小さじ2/3でさっと茹でる)冷まし、一晩水にさらします。

● ぜんまい
 シダ植物。綿毛をかぶった若芽が出、成長すると毛が無くなります。葉の開かない若芽と茎を食べます。炊き合わせ、和え物などに合います。

● つ く し
 なんとも愛らしい山菜。5cm~10cm位のものが食べ頃。ハカマを取って、てんぷらにしたり、さっと茹でて汁物の実や和え物、酢の物にします。

● う ど
 ウコギ科の多年草。特有の香気、歯ざわりは春の料理には欠かせない美味な山菜。日当たりの良い場所に生えているものなら30cm、日陰のものなら60cm位が食用に適します。伸び過ぎると硬くなり食べられません。茹でて水にさらし、和え物(特に酢味噌和えが美味しい)、サラダにもよいです。
 芭蕉の句に「雪間より薄紫(うすむらさき)の芽独活(めうど)かな」というのがあります。まだ雪の残る山で、薄い紫色をしたうどの芽が顔を出した時に遭遇した嬉しさを詠んだものと思われますが、このような若芽との出会いは、なかなか無いようです。

● こ ご み
 シダ植物。アクが少ないので、サッと茹でて和え物、汁物、酢の物に、生のまま油いためも美味しいです。

● たらのめ (たらんぼ)
 たらの木の若芽。春早く芽が出たところを、トゲに気をつけて摘みます。生のまま油で揚げるてんぷらが一般的。ほっくりとした食感がたまりません。

● アイヌネギ
 ギョウジャニンニクの名で呼ばれるように、ニンニク、葱と同系の風味。塩を入れた湯でサッと茹で、水にさらして用います。酢味噌、辛子醤油などと合います。

● タケノコ (チシマザサ)
 北海道でタケノコといえば、ほとんどがチシマザサの若芽のこと。別名ネマガリダケともいいます。5月から6月が食べ頃です。10cm位のものが最も美味しく、採ってから時間がたつとエグ味が増すので、すぐ茹でます(米のとぎ汁で茹で、皮をむき、水にさらします)。どのように調理しても美味しく、上品で淡白な味わいは食べるものを魅了します。

● かたくり
 ユリ科の多年草。ピンク色の花は愛らしく美しい。サッと湯通しして、お浸し、和え物、酢の物に。花が枯れた後休眠します。その後根にでんぷんが蓄積されます。良質のでんぷんで日本料理には欠かせない食材です。

● 薬草としての山菜
 山菜は味覚を楽しませてくれる健康食としてばかりでなく、薬草としても使われてきました。タラノキは胃腸病に、ウドは頭痛・歯痛に、フキは咳・痰・喘息に等々。
 年中行事の一つであるお正月の七草粥。この粥を1月7日に食べると万病を防ぐといわれています。お粥に入る春の七草は、せり、ナズナ(ペンペン草)、ゴギョウ(ははこぐさ)、はこべ、ほとけのざ(これらは4~5月頃に野山で見られます)、これにすずな(かぶ)、すずしろ(だいこん)を加え七草。この中のナズナ(ペンペン草)は、アブラナ科の二年草で、古くは古代ギリシャ、中国などで薬用として重宝されていたようです。年の始めにこの七草の入ったお粥を食べ(北海道ではお正月には手に入らないので栽培物を利用します)、薬草からパワーをもらい無病息災を祈ったのでしょう。それが今に語り継がれています。また、薬草といえば、一般の家庭で使われる代表的なのが7月頃花をつける「ゲンノショウコ」。花と茎を陰干しにし、乾燥したものを煎じて服用します。殺菌効果があるので、大腸カタル、赤痢などに民間薬として昔から使われてきました。

 最後に小倉百人一首から ~ 「君がため春の野に出(い)でて若菜つむ わが衣手に雪は降りつつ (孝光天皇:830-887)」 ~ 山菜は平安の昔から、いいえそれ以前の大昔から貴貧を問わず好まれた食品です。このすばらしい自然の恵みを大切にしていきたいものです。


※1.大田南畝(おおたなんぼ : 1749-1823) 江戸時代の狂歌師、幕臣、別名を蜀山人(しょくさんじん)といい、その博識とすぐれた識見、鋭い機知と軽妙なしゃれで人気を博し天明文壇をリードした人。

  <参考文献>
     ・「山菜料理」「山菜に親しもう」,北海道新聞社(1984,1988,2002)
     ・「万有百科大事典・植物」,小学館(1972)
     ・「現代世界百科大事典」,講談社(1971)


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