何をどう食べればいいの? これからの食べ方
「給食管理論」担当 村田 まり子 助教授
コラム No.7
2007年1月
● 日本人はどのように食べてきたか ●
日本は古来より豊葦原瑞穂(
とよあしわらみずほ
)の国と称し、水田稲作を主な生業として暮らしてきました。高温多湿という気候、多量の水の供給源となる広大な山林を背景とした地形は、水田稲作に適しており米を中心とした穀類の食文化を築き上げていきました。その内容はたんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルが不足し低栄養の食事であり、肉食を中心とした欧米人に比べ体型は小さく脚気や夜盲症、さらにいろいろな感染症にも悩まされていました。
このような貧しい食事に大変革を起こしたのが明治維新でした。明治政府は医学の近代化を図るためにドイツ医学を模範とし、食生活においても有識者や政府は熱心に肉食を進めていました。ただし、お雇い外人教師として来日していたショイベやベルツらは日本食のよさによる体力の優位性を認識しており、安易に洋食化することを批判していたのです。しかし彼らの議論とは別に、肉食は日本人の中に普及していきました。
さまざまな形で西洋文化が流入し、価値観や生活様式の変化から和洋折衷的な料理が生まれ、食生活の変容が見られました。カレーライスやラーメン、和風とも異なる日本独自のとんかつ、コロッケ、すきやき、あんぱんなどの料理が市民権を得て人気メニューになっていきました。さらには、戦後の食糧不足を経て、アメリカからの輸入食料の活用を契機に、欧米化し、肉類、卵類、牛乳、乳製品、油脂類を多く取るようになりたんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルの欠乏は解消し、その結果として日本人は低栄養の状態から脱出することができました。
現在は、飛躍的な経済発展に伴い食生活は格段に豊かになり平均寿命や健康寿命も延ばすことができました。ところが不足からはじまった日本の食生活は充足を通り越えて過剰へと推移しています。
● 「日本型食生活」とその周辺 ●
次の図は、エネルギー摂取量に占めるたんぱく質(P)、脂質(F)、炭水化物(C)の割合を示したものです。バランスのよいとされているのは、おおよそP=15%、F=25%、C=60% であり古来の伝統食に西洋型のよい点を取り入れた昭和50~60年代の日本人の食事は、理想的なバランスを示していました。この頃アメリカではマクガバンが「日本型食生活」
※1
が理想食であるとの報告をしています。
ところが近年では、炭水化物が減少し、脂質の増加が目立っています。脂質と動物性たんぱく質の摂取量が過剰となり、穀類(特に米)と食物繊維が減少し、その結果肥満、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病が増大してきました。すなわちファストフードに代表される食の簡便化が拍車をかけ、食生活は「
飽
」食から「
崩
」食になり、世界中の学者がすばらしいと評価した食文化および「日本型食生活」が崩れてきています。
※1 日本の食生活スタイルを「日本型食生活」と名付けたのは農水省であり、1980年に出した『80年代の農政の基本方向』という文書の中で初めて使われた言葉です。
日本型食生活といわれる内容は、
・十分な栄養をとっていながら、欧米に比べて摂取カロリー量が少ない(過食ではない)
・炭水化物(C)の比率が高く、たんぱく質(P)、油脂類(F)とのバランスがとれている
・動物性たんぱく質と植物性たんぱく質の摂取量が相半ばしている
・動物性たんぱく質に占める水産物の割合が高い
という特徴があります。
● 「食事バランスガイド」 ●
昭和16年に定められた「日本人の栄養所要量」は、栄養素の欠乏症を予防する目的で設定され、栄養士は、栄養所要量を満足させる食品構成を作成し、それに従って給食業務を行ってきました。さらに平成12年には過剰摂取による弊害も含めた栄養教育や食事管理をするうえに必要なエネルギーや栄養素の基準値を、科学的根拠に基づいた「食事摂取基準」に改めました。また、同年には現代人が抱える様々な問題を解決するために、食事のあり方や食生活に対する心構えが実践されるように項目を示した「食生活指針」が示されました。
平成17年に策定された「食事バランスガイド」は、これらを受けて人々が食事をする際に何をどれくらいとればいいのかを具体化したものです。
「食事バランスガイド」
厚生労働省・農林水産省 平成17年
● これからの食べ方:栄養士・管理栄養士の立場から ●
栄養士・管理栄養士は、この「食事バランスガイド」により、種々の場面で栄養教育を行い、栄養改善を行うことになっています。その主な役割は、以下の(1)から(3)にまとめられます。
(1)
適正な食習慣の形成と健康増進
健康人が適正な食習慣をより高めるための教材(教育媒体)として活用する。
(2)
生活習慣病予防と介護予防
早期に生活習慣の改善栄養教育・指導(介入)を行い、一次予防を徹底する。
(3)
食環境の整備
個々人が実践しやすいように、家庭、地域、職場等、社会全体として支援する環境整備が重要である。
今後は、「日本型食生活」の再生と「食事バランスガイド」の活用が、栄養士・管理栄養士に与えられた重要な職務になっていくでしょう。
「食事バランスガイド」のイメージキャラクターに、長澤まさみ を起用
長州小力 食事バランスガイドリーフレット(中高年向け)
<参考資料・図書>
・社団法人栄養士会 : 食事バランスガイドを活用した栄養教育・食育実践マニュアル,第一出版
・中村丁次 : 別冊太陽「日本人は何を食べてきたのか」,平凡社
・原田信男 : 日本の食文化,放送大学教育振興会
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