函館短期大学発「食・健・幸」
食を学ぶことは健康を学ぶこと。健康はすべての人が願う幸せ。


  旅で出会った味  ~ 仙台の駅弁<牛たん弁当>
      「教育原理」担当  鈴木 武嗣 教授
コラム No.5 
2006年10月 

 9月の上旬、短期大学の仕事で宮城県の仙台市に出かけました。仕事の主なものは仙台市で行われた「進学相談会」に出席するものです。会場は仙台サンプラザホール、ドーム状の大天井を持つ驚くほど大きな建物です。午後3時に始まりましたが、訪れてくださった沢山のご父母の皆様や高校生、引率の先生に感謝しながらその建物を後にしたのは夕方の6時40分をまわっておりました。
 夕刻の仙台は風も心地好く、ブラブラと歩き出して横断歩道を青信号とともに何ヵ所か通過しホテルに向かいました。仙台は東北地方の中心となる大都市です。一年程来なかった間に駅を中心とした連絡通路が整備され、屋外のエスカレーターなどが新たに何ヵ所も設置されておりました。
 仕事が終わったという安心感もあり目前のエスカレーターに思わず乗ってみましたら、それはJR仙台駅に人を運んでくれるものでした。周囲の人に押されるように歩き続けるとまもなく仙台駅の構内に入ってしまいました。通行人の多さ、人々の歩くスピードの速さが、ここは大都会であることを改めて実感させてくれました。

 その時、突然おなかが「グウッ」っと鳴り出したのです。なるほど私の立っている所は駅の地下街でした。そこはおいしそうな様々な食べ物と、ほどよく混じり合った匂いが満ちているフロアで、空腹の人間にとっては両方の目が幾つもの点となってそこここをさまよい、持っているすべての臭覚が奪われてしまいそうな場所でした。
 その一角で 「これがおいしい仙台名物牛たん弁当。今、出来たばかりだよ。」 という声が上がり、かねてから一度は食べたいと思っていた牛たんが、弁当で食べられるという誘惑に勝てず「一個下さい。」と声を掛けていたのです。売り場カウンターの前に少しの間並んだ後でようやく一個を手にいれ、そこからは、大きな角型の容器を入れたビニール袋をぶらさげ、意気揚々とホテルに向かって歩き出したのです。

 ホテルの部屋に入り、テーブルに乗せた容器を開けようとすると、何と丁寧な注意書きがあるのです。「容器の途中についているテープを引いてください。数分後に食べられます。」とあり、そういえば物質の化学反応を利用し中身を暖めることが出来る駅弁が人気を呼んでいるという新聞記事を思い起こし、自分なりに納得しながらお茶を飲みながら少しの時間待ってみました。食べる側の心理からすると、なにしろ時刻は夕刻の7時半を過ぎており、空腹のおなかを待たせながらの時間はなかなか経過しないものです。きれいなパッケージに気をとられながら「もうよかろう。」と勝手に容器を開き、すかさず大きな口を開けてまず一口食べてしまいました。次に二口・三口と一気に食べ始めました。その美味なること、おいしいこと。表現できる言葉が見つからないまま、次々と四口・五口と食べ進みました。牛たんの柔らかさ、程よい厚さ、幸せを実感する一時(ひととき)です。ご飯の上にさらりとかかったとろろとの絶妙なるコントラスト。食べているしばらくの間は至福の時間を過ごすことができました。<牛たん弁当万歳!!>

 仙台という土地柄が生み出した味なのか、さてまた米どころとしての宮城県が誕生させた味なのでしょうか。多くの人々においしい味を提供し、沢山の人に喜ばれ・なじんでいる味、その味を旅と結び付け、旅の楽しさとしての味を生み出した先人の知恵には脱帽するばかりです。
 きっとまだまだたくさんある全国の駅弁が、多くの人々の努力によって、長い時間をかけてその土地土地の味を紡ぎ出し、国中に誇れる駅弁に成長したのではないかと考えています。「長野の峠の釜飯」「北海道のいかめし」の他、最近では駅弁に引っ掛けて「空弁(そらべん)」なるおいしい味も生まれてきています。「福井の鯖鮨」などはその代表と言えるでしょう。本来は明治の初頭に「汽笛一声新橋を」という愛唱歌に歌われたように、鉄道の発達と軌を一にするようにスタートした駅弁も、その駅だけで売られる弁当から、各地の駅へ、各地のデパートやスーパー、コンビニエンスストアの店頭に、中には空港にまでも登場するようになり、今や駅弁の全盛時代となっています。
 21世紀に入って少々時が経過しました。まだまだ世紀のはじめの慌ただしさが残っていますが、もうすぐ世界中に通用する「EKIBEN」の時代が到来し、世界中に日本食の良さと香りを乗せた駅弁が登場しても良いのではないかと考えています。


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